一般人に当てはめてみると、会社の上司に怒られたとか、資格試験の模擬試験で悪い点数を取ったという程度ではストレスとしてはまだ軽すぎて、「ノルアドレナリン増加エンドルフィン分泌」という循環にはならない。
だが、そういう場合でも、ノルアドレナリン増加にする方法がある。
それは、自分に都合のよいように考えることだ。
詳細は臼行に記したが、辛いことや悲しいことなどのストレスがあった場合、あえて逆の発想(逆想)をして、「これもひとつの試練だ、がんばるぞ!」とプラス思考に切り替える。
そうすればエンドルフィンが分泌することによって記憶力はアップするし、勉強もはかどるようになる。
イヤなことがあっても頭の切り替えがうまいとか、立ち直りが早いとかいわれる人がいる。
そういう人は、この術を自然と身につけているといってよい。
身体的修行でも、最終的にはβエンドルフィンが分泌される真言宗の開祖・空海(弘法大師)といえば、その超人ぶりでつとに有名で、数々の伝説に彩られている。
「弘法筆を択ばず」と引き合いに出されるほど書道に秀でた、日本三筆の一人でもあるが、彼はまた暗記の天才であり、かなりの分量の経典を記憶していた。
その記憶力はどこに由来するものであったか。
長期記憶は遺伝子が影響してくるということで、天銅女命の末商と伝わる稗田阿礼のことを書いたが、空海の場合、その身体的修行により記憶力も錬磨されたのではないかと推察する。
彼には二四歳から三一歳までの七年、どこでなにをしていたかわからない空白の期間がある。
その間、精神的かつ身体的に超ハードな密教の修行を行なったはずである。
身体的にハードな修行は、当然ながら非常なストレスを伴う。
もちろん最初はノルアドレナリンが分泌されるが、修行が極限状態になったとき、その苦痛を和らげるためにエンドルフィンが分泌。
すると修行が快感になり、しかも記憶力がアップする。
この脳科学的な好循環を、前人未踏のレベルで実践してみせたのが空海ではなかったか。
もちろん、現代に生きるヤワな一般人がそういうことをマネするのは不可能だから、あくまで知識として身につけるにとどめていただきたい。
ここのところはテレビなら、「よい子の皆さんは絶対マネしないでください」と断り書きを入れるところかな(笑)ともあれ、厳しい運動後に記憶力がアップする可能性があるのは、まぎれもない事実だ。
空海の修行と同様の理論で、「ランナーズ・ハイ」「ジョギング・ハイ」という現象がある。
マラソンをしている人は、外見上は非常に苦しそうに見えても、実際には本人はあまり苦しんでおらず、むしろ快感を感じていることがある。
つまり、厳しい運動→ストレス→ノルアドレナリン増加→苦痛緩和→エンドルフィン分泌→記憶力アップ、という循環だ。
ジョギングをすると記憶力がアップするのは、エンドルフィン以外のメカニズムも関係している。
それは、脳の血流量アップである。
つまり、脳への酸素の供給量が増えて記憶力アップに寄与するのだ)。
右脳で覚えたことは長く記憶に残る右脳の記憶容量は左脳の一〇倍以上いまどき、「右脳」「左脳」という言葉を聞いたことがないという人はいないだろう。
それくらい右脳の存在は知れわたっている。
脳の機能に、左半球と右半球で差があることは一九六0年代に発見されている。
当時のアメリカでは、重症の癒欄(てんかん)患者の治療として、脳梁(大脳の左右半球の境目)を切断するという、いま考えるとおそろしく乱暴な手術が行なわれていた。
この手術を受けた患者たちの術後に起きる奇妙な症状(発作はおさまったが別の症状が発生)に着目し、左脳と右脳のはたらきの違いについて研究したのがカリフォルニア工科大学のロジャースペリーである。
たとえば、右目をふさいで左目だけの状態で、なにか物を見せてみる。
すると、その物がなにであるかは理解しているのに、その名称が出てこない。
そういった研究の繰り返しにより、言語中枢は左半球に位置し、右半球はイメージを操作する脳であると、今日知られている右脳・左脳の基本的な違いが解明された。
ちなみに、スペリーはこの研究によってノーベル賞(医学・生理学賞)を受けている。
・左脳「読む」「話す」「書く」などの言語に関する機能をつかさどる右脳は図形や模様の認識(パターン認識・空間認識)や音楽の認識をする大脳の優位半球というのは、どちらに言語機能があるかで決まる。
ほとんどの人は左脳で、数%の人が右脳だが、まれに左右両方に言語機能がある人がいる。
そして、左右両方というのはなぜか、たいがい左利きだという。
厳密にいえばみんながみんな、左脳に言語機能があるわけではないのだが、以下の説明では「左脳言語脳」ということで話をすすめたい。
右脳の記憶容量は、左脳の一〇倍とも一〇〇倍ともいわれている。
一〇倍と一〇〇倍、これほど幅があるのは研究者によって発表内容が異なるからだが、いずれにせよ、この右脳のキャパシティの大きさを、勉強に利用しない手はない。
イメージで覚えるこれが右脳記憶術だ。
取引先の担当者の顔ははっきり覚えている、なのに名前が出てこない。
あるいは、高校の同窓会に行った場合でも、ああアイツも歳をとったなとわかるのだが、そのアイツの名前が浮かんでこない。
こういった経験を持つ人も多いだろう。
脳梁を切断されたわけでもないのに、なぜそんなことが起こるのか。
これも、右脳と左脳の機能の違いに起因する。
実は、図形を認識する右脳のほうが、言語機能を持つ左脳よりも記憶が長くつづくのだ。
とくに、喜怒哀楽などの感情が伴った記憶は、非常に長つづきする。
人それぞれにいくつもの「思い出」を持っているが、その思い出はそうして植えつけられたものである。
そして、悲しいことよりも、楽しいことの思い出のほうが記憶が長つづきする。
これは、アメリカのジャ−ルドが報告している。
右脳はキヤパが大きくて、さらに長期記憶に向いているのである。
したがって「右脳学習法」というのは、脳科学的に立派に成り立つ。
現実に、右脳ナニナニということでさまざまな学習支援商品(メカ)が開発されているが、ここでは商品の具体的な説明ではなく、ごく一般的な説明をしておこう。
資格試験などのテキストを読む場合は、文章中の用語や解説を頭で理解するだけでは左脳頼みで、右脳は使っていないことになる。
では、右脳を使うにはどういう学習法をすればよいのか。
ひとつの方法は、テキストを読みながら、その内容をイメージ(情景・景色)として頭に思い浮かべることだ。
たとえば、司法試験で刑法の勉強をしているなら、ある判例についての判決を、裁判長が言い渡している場面などを。
さらに一歩すすんで、単に情景を思い浮かべるだけでなく、自分がその場に居合わせていると想像すればよい。
つまり、擬似体験をするわけだ。
この方法が有効な理由として、「現実と同じような鮮明なイメージを思い浮かべると、脳内ホルモンが分泌される」というオーストリアのシユプレルの報告がある。
また、右脳を使うとα波が出るとの報告もある。
これらの脳内ホルモンやα波が記憶力をアップすることは、前述のとおりだ。
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